目に見えるものだけが全てではない 『フロッグマン戦記 第2次世界大戦米軍水中破壊工作部隊』に描かれた真実【緒形圭子】
「視点が変わる読書」第8回 『フロッグマン戦記 第2次世界大戦米軍水中破壊工作部隊』アンドリュー・ダビンズ著
◾️恐らく最後のUDTの隊員 ジョージ・モーガンにインタビュー
著者のアンドリュー・ダビンズは、2022年において存命の、恐らく最後のUDTの隊員であるジョージ・モーガンにインタビューを行い、彼が語る話を主軸に、この本をまとめあげた。しかし、当時17歳だったジョージの話だけでは信憑性に欠けてしまう。そこで、UDTの生みの親ともいえるドレーパー・カウフマンをはじめとする他のUDT隊員のオーラル・ヒストリーやUDTの事後報告、公刊された歴史で補足を行った。
こうした説明だと堅苦しい歴史書のように思われるかもしれないが、ジョージとドレーパーを中心に、ロンメル、マッカーサー、ニミッツ、アイゼンハワーら歴史上の人物がからむ群像劇となっていて、まるで物語を読むように面白い。
いちばん驚いたのは、UDT隊員の多くが軍での経験の浅い十代の若者たちだったということだ。
例えばジョージの場合、17歳で志願して海軍に入隊した一ケ月後の面接で「泳げるか?」と聞かれ、「もちろん。私はライフガードでした」と答えたことが、海軍戦闘解体部隊に志願したとみなされた。状況がよく分からないまま過酷な訓練を課され、実践経験がないにもかかわらず、いきなりノルマンディー上陸作戦の解体隊員として戦地に送られたのである。
映画『史上最大の作戦』のオマハビーチの戦闘シーンは凄まじかった。海岸に上陸した連合軍の兵士たちはドイツ軍による断崖上からの重砲、追撃砲、ロケット砲、焼夷弾、機関銃、小銃の攻撃にさらされ、水辺は地獄絵図と化した。そのさなかもジョージを含むUDT隊員たちは海の中で障害物を破壊する任務を遂行し、軍から要求されていた16の突破口のうち13を開いたのである。もちろん海の中にも砲弾は降り注いでいる。生きるか死ぬかは運に任せるしかない。ジョージはそこを生き延びた。
UDTは日本とも深く関わっている。何故なら、ノルマンディー上陸作戦に勝利した後、隊員が送られたのが硫黄島だからだ。
1945年2月19日、アメリカ海兵隊6万1000人が硫黄島に上陸。日本軍は天然の洞穴や岩場を利用して構築した地下陣地から応戦したが、一ケ月以上の攻防の後、3月26日に栗林忠道陸軍中将が自決し日本軍の抵抗は終り、アメリカ軍が硫黄島を奪取した。
この戦いにおいてもUDT隊員は大きな役割を果たしている。
ジョージを含む隊員たちは島から600メートルも離れたところに止められた舟艇から冷たい海に入り、泳いで島に近づきながら25ヤードごとに水深を測定し、島に上がると、海岸の砲台の位置や海辺の地形を調べ、上陸を予定している地点の障害物の有無を確認し、島の土を採取して持ち帰った。
彼らが持ち帰った情報により、島周辺の海図が作成され、上陸作戦が組まれた。自らの手で島の黒い土に触ったドレーパーは「こういう種類の砂なら、装輪車両でも通行できる」と判断した。
UDT隊員たちはリアルタイム・マッピングという偉業を達成したのであり、これがなければ、硫黄島の攻略は失敗していたかもしれないのだ。
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